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おばけ煙突 ★ [考えたり実験したり]

おばけ煙突(合成写真)
※おばけ煙突をご存知でしょうか……。(写真は合成です)

残暑きびしい折、みなさまいかがお過ごしでしょうか。夏だから「怪談」でオバケの紙工作でも……、と思ったのですが、オバケがらみでおもしろいネタが思いつくより先に、「おばけ煙突」のことが頭に浮かびました。そもそも「おばけ煙突」って、なんでしたっけ? おばけみたいな煙突? おばけの出てくる煙突? 伯母家煙突? それとも……。

おばけ煙突は、実在した煙突です。もちろんこの呼び名は俗称で、正式には「東京電力 千住火力発電所」の4本の煙突群を指します。東京都足立区千住は隅田川河畔にそびえ立つこの煙突は、たしかに4本あるのに、なぜか3本に見えたり、2本に見えたり、1本に見えたり、また4本に見えたり……、と、まるでおばけのように見え方が変わる不思議な煙突だったのです。

大正15年に建設された発電所の高い煙突は、当時、周囲になにもない地域だった千住で、異様な姿をさらしていました。なかなか煙が出ないと思ったら、いつのまにかモクモクと黒煙を上げていたりする気まぐれな様子を見て、周囲の住人は「おばけみたいにとらえどころのない、ヘンテコな煙突だなぁ」と思っていたそうです。

そして、見ようによって本数がちがって見えるという、不思議なうわさが広まってからは、「おばけ煙突」の名前がすっかり定着して、『煙突の見える場所』という映画にも登場しました。(この映画、観ていないのですが、とてもいいタイトルですね!)

では、なぜ4本の煙突が、1本2本3本……、とおばけのように姿を変えてしまうのでしょう? 残念ながら、おばけ煙突は昭和39年に取り壊されてしまいました。したがって、実際におばけっぷりを観察に行って、そのしくみを解明することができません。頭の中で想像するしかないのです。

こんな不思議なことが現実に起こりうるのか、いったいどうなっているのか、原理的に可能なのか、それをきちんと(!)考えてみましょう。記述をなるべく正確にしたいので、ちょっと読みづらいですが、数学(初等幾何学)的に書きましょう。

煙突は同じ太さ、同じ長さで、同じ地面(平面上)に垂直に立っています。

2本の煙突の場合、一直線に並ぶ方向から眺めれば、煙突同士が重なって1本に見えることがあります。これは簡単ですね。

3本の場合、地面に描いた三角形のそれぞれの頂点に立っている煙突は、いずれか2本が一直線に並ぶ方向から眺めれば、全部で2本に見える場合があります。でも1本に見える位置はありません。ただし、すべての煙突が一直線上に並んでいる場合は(2本には見えなくても)、1本に見えることがあります。

3本の煙突は、3本と2本に見えるか、3本と1本に見えるか、必ずどちらかになります。どうやらこのへんがヒントになりそうです。おばけ煙突は、4本・3本・2本・1本、に見えたのですから、いくつかの条件が重なって、このような特殊な見え方になっているにちがいありません。

4本の煙突が四角形の各頂点にある場合、いずれか2本が一直線に並ぶ場合は、合計3本に見えます。もし、この四角形が平行四辺形だったら、平行に並ぶ2本ずつの煙突が同時に重なって、合計2本に見える方向が(四方に)あることになります。

※注意:数学的には、平行な直線が交わる点は存在しないので、この記述は正しくないのですが、実生活においては、このズレを意識する必要のない絶好のビューポイントがあることは想像していただけるでしょう? ……遠くに離れれば良いのです!

さて、4本の煙突が、3本と2本に見える可能性があることがわかりました。しかし、4本が1本に見えるためには、すべての煙突が一直線上に並んでいなければなりません。地面に一直線に並んだ点を結んでも、けっして四角形はできあがりません。すると、4本の煙突は、3本2本に見えるか、1本に見えるか、どちらか一方の条件しか満たさないようです。あれ、おかしいなぁ。うーむ、おばけ煙突なんて、本当は実在しなかったんじゃないかしら……。

でも、これはあくまで机上の空論。数学(幾何学)の初歩をガチガチに解釈すると、おばけ煙突は作れません。でも、たしかにおばけ煙突は作れるんです。やってみましょう!


紙工作おばけ煙突(4本) 紙工作おばけ煙突(3本)

紙工作おばけ煙突(2本) 紙工作おばけ煙突(1本)
※順に、4本・3本・2本・1本、に見えます。たしかにおばけ煙突です!

紙工作の型紙はこちら。
◆おばけ煙突(約400kb)
※PDFファイルの紙工作型紙(無料)です。転用・転売・直リンクなどはご遠慮ください。


煙突には「太さ」があります。けっして「点」や「線」の上に立っているわけではありません。千住のおばけ煙突は、実測値で、煙突の太さ(直径)が6メートル、平行四辺形(菱形)の頂点に立つ近い方の2本の煙突の間は、5メートルしか離れていませんでした。5メートルのすきまに6メートルの巾の煙突が重なるポイント、この方向から見れば煙突はたしかに1本に重なって見えるのです。

いかがでしょう。理屈ではなんとなくわかっていても、頭が固いとなかなか実感できないもの。実物を目にすると、きちんと納得できますよ。数学的に厳密な「点」や「直線」などの概念から抜けだせないと、おばけ煙突が存在しなくなってしまって、ほんとうに「おばけ」になっちゃいますものね!

ちなみに、おばけ煙突の高さは80メートルちょっとだったので、紙工作の型紙は、約1/60〜1/50くらいです。シンプルで美しいです。ぜひ、実際に作ってみて、「おばけ」っぷりを体感してみてください! 組み立てはとっても簡単ですから。


【追記】
……すみません。ウソついてました。組み立ては意外とむずかしいです。

紙の煙突を、細く筒状に丸めるのがとてもたいへん! 煙突部分は薄い紙(コピー用紙とか)に印刷して、クセをつけながら、鉛筆などに巻きつけてやるといいかもしれません。土台は少し厚めの紙でしっかりと作るのがよいでしょう。土台の丸い穴は、放射状に切りこみをいれて、内側に折り曲げて、煙突の筒をさしこみます。きちんと垂直に立つように微調整しながら、あちこちから眺めてみてください。あまりうまく実感できない場合は、片目をつぶって見てみましょう。


※すべてのコンテンツは、個人として楽しむ以外の利用はご遠慮ください。

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コメント 13

初&よろ。おばけ煙突の話は知り合いのお婆ちゃんから聞いたことがあります。
どうしても、「1本」に見えるということがわからなくて…。
なるほど、そういうことだったんですね。【あっぱれ】です。
by (2005-08-24 02:04) 

みじお

ひよさん、はじめまして。バンダイの食玩「名鑑シリーズ こち亀ギャラリー」にもおばけ煙突を再現したミニチュアがあったのですが、小さくて煙突の高さが足りず、いまいちおばけっぷりが実感できない代物でした。ボクも今回いろいろ調べてやっと仕組みが判りました。実際に紙で作ってみたら、本当になるほど!と思いますよ。
※こち亀ギャラリー http://www.bandai.co.jp/candy/products/2004/20877.htm
 
by みじお (2005-08-24 12:46) 

ゆるりか

すごい、感動しました。
ああ、みたい、そのおばけ煙突。
映画にはうつっていないのですか?
ありがとうございました。
知らないことってほんとに、未知数・・・。
急におじゃましてすみませんでした。失礼しました。
by ゆるりか (2005-09-05 22:51) 

みじお

ゆるりかさん、はじめまして。
映画『煙突の見える場所』はボクも未見ですが、DVDパッケージのスチールを見ると背景に煙突が映っていますし、主人公の男性がボールペンを立てて煙突に見立てて、彼女に仕組みを説明しているシーンのようですから、おばけ煙突に見守られながら人々が交流するといった内容の映画だったのではないでしょうか。見てみたいですね。
※『煙突の見える場所』パッケージ画像 http://images-jp.amazon.com/images/P/B00005HPJP.09.LZZZZZZZ.jpg
煙突そのものは、取り壊されてありませんが、現地に近い足立区立本宿小学校の校庭にあるすべり台に、輪切りにされて半分になった煙突の鋼板が残っているそうです。近くに行くと案内版や解説があるかもしれないので、いつかボクも行ってみたいです。
※本宿小学校のすべり台 http://www.adachi.ne.jp/users/senjusin/image/oentotu17pg.jpg
by みじお (2005-09-06 12:28) 

やす

はじめまして!
みじおさんはもう「光のおばけ煙突」見ましたか?
詳しいことはこちらに書いてあるので読んでみて下さい!
http://www.geidai.ac.jp/info/061213_01.html
by やす (2006-12-20 23:06) 

みじお

やすさん、はじめまして。
「光のおばけ煙突」情報、知りませんでした。ありがとうございます。さっそく見に行こうと思っています。コチラの写真(http://www.ayomi.co.jp/photo/0612/obake_1.jpg)だと、サーチライトが天に昇る様子がよく見えて、おばけっぷりを確認できそうですね。期間限定じゃなく、常設・常時点灯になればいいのに。(記事本文はコチラ:http://www.ayomi.co.jp/kiji/200612/200612kiji/014.htm

最近は、なかなか更新ができなくてお恥ずかしいブログにまで、丁寧にコメントを寄せてくださってありがとうございました!
by みじお (2006-12-21 10:35) 

取手のアホ

あれこれ、50年も前たまに電車に乗ると、行きは綾瀬から南千住。帰りは南千住から綾瀬が当時楽しみでした。当時を走馬灯のように思い出しました。
by 取手のアホ (2007-08-02 23:33) 

みじお

取手のアホ さん、コンニチハ。

>行きは綾瀬から南千住。帰りは南千住から綾瀬が当時楽しみでした。
東京育ち「ではない」ボクは、関東に住むようになって10年経ちますが、それぞれの街に特別な感慨を抱くことはありませんが、多くの人々に愛され語り継がれてきた思い出話が、そこかしこに転がっている街を歩くと、まるで自分の思い出であるかのように、ノスタルジックで懐かしいような気分に浸れます。

先日は(『しゃべれどもしゃべれども』という映画を観たので、ふと思い立って)隅田川の舟にぼんやり乗っていたのですが、航路の途中で「勝鬨橋」をくぐったことに気付きました。その歴史も由来もエピソードも、なにひとつ知らないボクですが、どこかで耳にしたことのあるこの橋の名前……。
……!
そうか、もともと可動橋(跳開橋)だったんですね……。

こんなふうに、疑似「思い出」がつまった街並が大好きです。

(ちっとも更新していないブログにコメントを寄せてくださって、ありがとうございます!)
by みじお (2007-08-06 22:54) 

取手のアホ

おばけ煙突と言うと記憶は4才から12才頃電車から見る1本になったり3本と変化が子供心、に不思議でした。今みたく情報がなく小学校クラスでは何故換わるのかで、いろんな憶測が、中にわ本当に煙突が動いて本数が変化と言うのまで・・・これらのことが私の脳裏に残っていたのですネそれから25年位してから仕事で荒川区町屋に行った帰りのバスの中で会社の方ずおばけ煙突がこの近くと言ったのでバス停。尾竹橋で降りてわざわざ行った。おばけ煙突と私の保育園・小学校時代は走馬灯の様に想い出してしまいました。
by 取手のアホ (2007-08-08 23:20) 

取手のアホ

私は、18才から22才は仙台、24才は川越、26才からは、ほしんど北海道の各地を転々と当時はその地の特有な義理・人情等、観光に接しました。育ったところ以外の貴重な体験でした。さてオバケ煙突は、まだ5から8才のころの話、何故変わるのか、なかには煙突自体が動いて,変わると言う、当時はカラッポの頭でそれなりに考えたものです。でも懐かしいです。
by 取手のアホ (2007-08-09 09:40) 

hukayoi

はじめまして!
おばけ煙突は良き下町の象徴みたいな物ですね。
足立区または荒川区の人達は特に思い出深いことでしょう。
壊さないで残してもらいたかったですね。
by hukayoi (2008-08-27 20:45) 

春野


出会いの季節っしょ♪
一人暮らしの女とかマジですぐポンポン落ちておもしれーww
お姉さん美味しかったです(^q^)
http://vxb6o-e.www.sofban.info/vxb6o-e/
by 春野 (2011-04-11 07:59) 

ルイヴィトン アウトレット

カッコいい!興味をそそりますね(^m^)
by ルイヴィトン アウトレット (2013-06-28 22:17) 

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